わたしたちは、
脳内で情報を処理する仕組みを理解することで、
神経医療機器の開発を目指しています。
わたしたち研究グループは、生命理工学院の3つの研究室(赤間研究室・藤枝研究室・宮下研究室)から構成されている、生命理工オープンイノベーションハブ の一員です。
また、久保田有一医師と園田真樹医師、ならびに株式会社INOPASE社と株式会社ユニークメディカル社に協働していただいています。
東京工業大学生命理工学院
神経医療機器開発グループ
脳が、私たちの身体の動きを司っています。
860億個の神経細胞
脳は860億個の神経細胞から構成されています。
神経細胞には一般的に、樹状突起・細胞体・軸索の3つの部位があります。
各々の部位は、信号の入力・統合・出力を担っています。
シナプスを介して
神経回路を構築
神経細胞はシナプスを介して神経回路を構築しています。
シナプスを介して神経細胞同士が結合することにより複雑なネットワークを形成しています。
この神経回路によって、知覚・思考・運動など意識的な情報処理のみならず、身体の恒常性を保つための無意識的な情報処理も行っています。
薄くて柔らかい電極の開発
わたしたちは大脳皮質の表面に貼り付ける薄くて柔らかい電極=薄膜電極を開発しています。
大脳皮質表面に設置するタイプの電極は頭蓋内電極として製品化されています。国内ではてんかん焦点診断に、国外ではてんかん治療にも使用されてきています。
薄膜電極は、薄い基材に電極配線パターンを印刷して製造します。
既存品と比べて非常に薄くて柔らかいので、大脳皮質に対する機械的な侵襲性が小さく、また、脳表の凹凸に対する追従性よく広範囲に電極を貼付することが可能になると期待されています。
ウェアラブルなてんかん治療機器で難治性てんかん患者さんのQOL向上に貢献する
わたしたちは薄膜電極を使用したウェアラブルなてんかん治療機器を開発しています。
薄膜電極で電位計測をし、てんかん焦点部位を推定し、その部位を電気刺激することによって、てんかん発作の発生を抑制する装置です。これは電気刺激による神経修飾技術を応用しています。
薄膜電極を大脳皮質表面に広範囲に貼付することが可能なことから、国外の既製品と比べて治療効果が高くなることが期待できます。このような装置が医療機器として認証されれば、難治性てんかん患者さんのQOL向上に貢献できると確信しています。
モデル動物によるてんかん様活動の計測
この動画は、モデル動物を用いててんかん様活動がどの部分で発生しているかを計測した結果を示しています。赤い部分は脳の活動が最も高い部分を表しており、青い部分は脳の活動が最も低い部分を表しています。このような細密な計測は、てんかん焦点部位の診断や電気刺激による治療にかかせません。
てんかん波の抑制のイメージ
頚髄損傷患者さんの飛躍的なQOL向上に貢献するBMIとBCI
わたしたちは薄膜電極を使用したウェアラブルなデコーダの開発に取り組んでいます。
デコーダは薄膜電極で計測した電気活動から情報復号するための装置です。
復号された情報は、義手などのマシンを制御するための信号(BMI:ブレインマシンインタフェース)として使用されたり、コンピュータを操作するための信号(BCI:ブレインコンピュータインタフェース)として使用されます。
わたしたちは身体の上肢運動を制御している大脳皮質領野に着目し、神経科学的知見に基づいて、計算負荷の小さいデコーダを構築します。
このような装置が実現できれば、頚髄損傷患者さんの飛躍的なQOL向上に貢献できると確信しています。
論文・特許
- 論文Advanced Materials Technologies 誌に掲載された、薄くて柔らかい記録・刺激可能な電極の製造方法とその物理的・電気的特性に関する論文。
- 特許「脳表に貼付して使用される記録及び/又は刺激用の神経電極とそれを用いた 記録又は刺激方法」として薄膜電極に関する特許を国際出願中。文献番号:PCT/JP2022/035817
- 論文Journal of Robotics and Mechatronics 誌の「超適応のシステム科学」特集号に掲載された腕の運動適応モデルに関する研究論文。インターフェースの作り方に洞察を与える。文献番号:Journal of Robotics and Mechatronics Vol.34 No.4 pp. 817–827 (2022)
- 論文マサチューセッツ工科大出版局(MIT Press)から出版された言語データ科学を網羅したハンドブックに掲載された、脳と言語の関係を対象とした神経言語学に関する解説論文。文献番号:The Open Handbook of Linguistic Data Management pp.547–556 The MIT Press (2022)
- 論文腕運動の情報が大脳皮質運動野の神経細胞活動にどのように符号化されているかに関する研究論文。どのように情報復号するべきか洞察を与える。文献番号:IEEE Transactions on Industrial Electronics vol. 63 no. 3 pp. 1943–1952 (2016)
- 論文Clinical Neuroscience 誌の「ブレインマシンインターフェース」特集号に掲載された腕運動の情報復号に関する解説記事。文献番号:Clinical Neuroscience Vol. 34 No. 2 pp. 160–163 (2016)